クォークとハドロンの世界
物質は原子で出来ているが、その原子は原子核とそのまわりを回る電子からなる。
原子核の大きさは10マイナス15乗メートル程度の大きさで、これは原子の大きさの約十万分の1である。だが、その原子核ですら、物質の基本単位でない。原子核は、陽子と中性子という粒子から構成されている。今日では、陽子や中性子も基本的な粒子でなく、クォークという粒子から構成されている事がわかっている。ただし、クォークは単独で取り出せる粒子でなく、常に陽子や中性子などの粒子の中に閉じこめられている。
その意味では、電子、陽子、中性子が分解可能な物質の一番小さな構成単位である。
それでは、陽子と中性子から、どのようにして原子核ができるのであろうか?
陽子はプラスの電荷を持っている。中性子は電荷を持っていない。また、
これらの粒子の質量はたいへん小さいので、これらの粒子間に働く重力は無視できる。
したがって、もし、この世の中に重力と電磁気力(電気的な力)しかないならば、
原子核は陽子と陽子の間に働く電磁的な斥力のため崩壊し、原子核は存在できない事になってしまう。原子核が存在するためには、上述の電磁的斥力に打ち勝つ強い引力が存在しなければならない。この力を核力という。
核力の正体は何であろうか?力学の例からわかるように、ある2つの物体の間に力が働くという事は、それらの物体の間で運動量の受け渡しが行われるという事である。この事をミクロな粒子の世界に適用すると、力が働くためには、何らかの粒子が介在しなければならない事になる。たとえば、電気的な力の場合、ある粒子が光子(光の粒子)を放出し、別の粒子がそれを吸収する事により、運動量が受け渡され力が働く。核力の場合、中間子という粒子が光子の役割をする。つまり、陽子や中性子の間で中間子が受け渡され、力が働く。これがノーベル賞をとられた湯川博士の中間子理論である。中間子は質量を持っているので、電磁的な力などと異なり、核力は遠方まで到達しない。このため、核力は、原子核の程度の大きさの範囲でしか働かないミクロな力である。現在では、核力には引力だけでなく、斥力もある事、それに対応して中間子の種類もたくさんある事がわかってきている。また、中間子もクォークとその反物質である反クォークから構成されている事がわかっている。なお、陽子や中性子をまとめて核子と呼び、核子と中間子をまとめてハドロンと呼ぶ。
上述のように、原子核の構造の大まかな性質はわかってきたが、様々な原子核のもっと具体的な性質が、ハドロンの性質からきちんと説明されている訳ではない。ハドロンの性質自身も、いまだ解明されていない部分がある。我々の研究の目標は、ハドロンを構成単位として原子核の諸性質をきちんと説明する事、その際、相対論的な効果をきちんと考慮する事、さらに原子核中のハドロンの性質を解明する事である。また、たとえば、星の内部では、たくさんの核子が集まった状態が存在する可能性があるが、そのような状態も我々の研究の対象である。