素粒子論
物質を細かく見ていくとどこまで分割できるのでしょうか?全ての
物質は原子から出来ていることはご存知だと思います。また、原子
は原子核と電子から出来ており、いわゆる原子番号というのは原子
の中の電子の個数を表しています。原子核は陽子と中性子から成っ
ており、陽子は電子と同じ大きさの正の電荷を持っていて、陽子と
中性子はほぼ同じ質量(電子の質量の約2000倍)を持っています。
ここまでは教科書にも載っているのですが、さらにその先はどうなっ
ているのでしょう?
「素粒子物理学」は自然の究極の構成要素が何であるか、またそれ
らの間にどのような力がはたらいていて現在の自然の姿を作ってい
るのかを解明しようとする物理の1つの分野です。読んで字のごと
く、「素」(もと)となる粒子とは何かを問題としています。現在
では、陽子と中性子はそれぞれクォークと呼ばれる粒子が3つ集まっ
て作っていて、そのうちの1つのクォークが違うだけであることが
分かっています。このことは陽子と中性子が電荷が違うだけで、原
子核の構成の仕方や質量がほぼ同じであるなど兄弟のような性質を
持っていることを自然に説明できます。今やこのようなクォークが
6つ見つかっています。3つは正の電荷を持ち、残り3つは負の電
荷を持っています。そしてこれらは陽子と中性子が兄弟であったよ
うに、電荷の違いを男女としますと、男女の双子が3組いるような
6人兄弟になっています。実は電子の方にも電荷の違う相方がいて
ニュートリノと呼ばれています。そしてこの組がクォークの場合と
同じように3組いて6人兄弟です。数が揃っているのは偶然ではな
く、それらの間にはたらく力の法則を調べると、このことは必然で
あることが分かります。
これらの「素粒子」の間には4つの種類の異なった力が働くことが
知られています。そのうちの2つは皆さんはよく知っていると思い
ます。1つは重力(万有引力)で、もう1つは電気や磁気の力です。
残り2つは原子核の中のようなミクロの世界でしか感じることの出
来ない「強い力」と「弱い力」と言われるものです。クォークや電
子の兄弟達は、これら4つの基本的な力の1つ1つに対応する別の
素粒子をお互いに交換することで、力を及ぼし合っていると考えら
れています。これらの素粒子とその間の力を記述する理論は、皆さ
んが高校で学ぶ力学や電磁気学の延長線上にあり、現在も発展中な
のです。この発展中の理論は実験で確かめられたり、新しい現象を
予言したり、これまで謎だった問題を解決してくれます。
素粒子理論は宇宙の初期を解明するのに使われています。時間をさ
かのぼっていくと宇宙はその初期では非常に高温で、物質の状態は
我々の日常とは異なり素粒子のスープ状であったと考えられていま
す。これはビッグ・バン理論と呼ばれ、様々な観測から最もらしい
ことが確認されています。このごく初期の状態を記述するには素粒
子の理論が必要なのです。例えば、素粒子の理論によると全ての粒
子にはその影武者のような反粒子というのがいます。反粒子は粒子
と同じ質量を持っていて電荷は逆です。電子に対して陽電子、クォー
クに対して反クォークといった具合です。そして粒子と反粒子が出
逢うと非常にエネルギーの高い光(ガンマ線)に変わります。逆に
エネルギーの高い光から粒子と反粒子の対が生じることもあります。
実験室でこのような反粒子を作ることは出来ますが、我々のまわり
には殆ど存在しません。ビッグ・バンは高エネルギーの火の玉、つ
まり光の塊から始まったとされています。そうすると粒子と反粒子
が同じ数だけ出来るはずです。では反粒子はどこに行ってしまった
のでしょうか?我々の銀河から遠いところに反粒子だけから出来た
銀河がるのでしょうか?その可能性は理論や観測から望み薄です。
実は現在の宇宙の姿を説明するには、100億個の反粒子に対して粒子
が1個だけ多ければよい、つまり100億1個あればよいことが分かっ
ています。このごく僅かの差を説明する鍵が現在の素粒子理論の中
にあるのではないかと考えられていて、私の研究テーマの1つはこ
の差を実験で確かめられた理論から説明することです。
大学ではこのような最前線の理論を学ぶための基礎となる物理学を
勉強し、4年生の卒業研究ではビッグ・バン理論の基礎や素粒子物
理の基礎となる相対論や量子論を勉強します。大学院に進学すれば
最先端の素粒子理論の一部に触れることが出来ます。少ない理論で
多様な現象を説明できるという物理の醍醐味も魅力なのですが、そ
の理論の成り立ちが数学的にも美しく自然の奥深さが感じられます。